
Vol.20
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1. 思想の森
2.国つ神計画研究所
3.KINEMA 2400
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/2026年9月8日発行/

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■ 1. 思想の森
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儒学には、「修身斉家治国平天下」という考え方があります。
国家・社会・他者を変えようとする以前に、まずは自らの心を正す。
最初のコーナーでは、聖人の言葉に従い、今、何を、どう思っているのかをお伝えします。
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気候が大きく揺れ動き、寒暖差が自律神経の消耗を加速させる白露を迎えました。ここから徐々に、私も冬モードに備えた準備を始めますが、昨今の日本の夏はほとんど身動きが取れないため、調査旅が本格化するシーズンでもあります。
さて、日本列島を本格的に旅するようになってから、早くも七年の月日が流れました。この間、コロナ禍を挟んで世界は大きく一変し、私たちの生活でも、AIがあらゆるところで実装されました。疫病時代の旅のコツは、半日とて同じ場所に止まらないことだと考え、車で暮らしながら、全国各地を高速に巡ったことを懐かしく思い出します。
また米国一強という世界秩序の崩壊と、それに伴う利権の帰属先を巡る抗争。日本で言えば、二〇一〇年代に第二次安倍政権が破壊した財政と通貨の同時崩壊のツケ。ここから、本格的な崩落へと向かってなだれ込み、誰もが生存に直結する事態を迎えるでしょう。
日本各地を巡っていると、七年前と今が、別世界だと感じることが増えました。特に地方では超高齢化の影響を受けて、人が消えたことを実感し、荒廃した地域が多くなり、以前は入れた神社なども立ち入ることが不可能なほど、植物に阻まれることも増えました。
何より、里山が崩壊した影響で、それまで山中で暮らしていた熊や猪や鹿などの活動範囲が、極端に広がっています。特に北東北では、以前のように、フラッと誰も立ち入らない山中に入り、探索を続けることも難しくなりました。
こうした実体験から、完全に崩壊した環境を前提に、都度判断を下していくことが、旅に限らず、生き延びるために重要な要素になると感じます。AIが三か月に一度ほどのペースでアップデートが起こり、その度に、それまで不可能と思われていた技能が代替されている光景を踏まえても、私たちが生きている世界は「三か月後の世界が分からない」という、未曾有の混乱の渦中にあります。
そうした中で、あらゆる予想や予測は、もはや意味を持たなくなっています。その筆頭格が、気象予報です。
これまでの旅では、気象予報をおおよそ眺めながら、次に向かう先を設計し、台風などが接近すれば、都度それを回避するスケジュールを組んでいました。しかし線状降水帯のように、いつどこで起きるか分からない現象や、豪雨による災害で不通の地域も続出しているため、旅中で見るべきは、予報ではなく観測になりました。つまり、気象レーダーを見ながら、動き方を適宜判断していく術が必要なのです。
同時に、装備も全て防水仕様に変更し、バックパックに入る物以外を所有しない生活に切り替えました。考えてみれば、このような旅のあり方は、旅を始めた頃は想像できないことでした。しかし今後、確実にこの装備と、何より考え方がなければ、旅も仕事も日常も、生き残っていけないように思えてなりません。そう考えて、先週末は会社設立の手筈を整えていました。
興味深いことに、混乱した世界で予想や予測が無意味になったのは、気象に限りません。その筆頭格が、財政と通貨です。
日本時間の今週九月十一日に米国CPI(消費者物価指数)が発表され、既に大幅増加が報告された米雇用統計と合わせて、来週の九月十五〜十六日にはFOMC(連邦公開市場委員会)による会合が開かれます。その直後の十七〜十八日には、日銀の会合。
既に、ベッセント財務長官が日本に利上げを迫る激しい圧力をかけており、同時に米国では、トランプ大統領がTruth Socialで、FRB(連邦準備制度理事会)に対して利下げをすることが「愛国者」だと公然と牽制しました。しかし、八月の雇用統計が予想以上に上振れした影響で、米国の利上げ観測が五五%から六五%へ急激に上昇。日本の飼い主である米国側で、激しい抗争が続いています。
その後に行われる日銀による発表は、重要な意味を持っています。十一月の中間選挙に向けて、是が非でも日米金利差を縮めたい米国と、利上げをすれば、利払い費で国家財政がぶっ飛び、金利差が開けば開くほど、通貨がぶっ飛ぶ日本。
いよいよ私たちの母国は、資源に留まらず、国家財政という国民生活の根幹となる決定権まで、外国に明け渡す一歩を踏み出すのかもしれません。果たして日銀は、独立性を維持できるのか。それとも日銀は、永田町とワシントンのどちらかに屈服するのでしょうか。いずれにせよ、国民生活は着実に破綻に向かいます。
今回、約二週間で西日本全体を太平洋側から日本海にかけてぐるりと巡り、そこから瀬戸内に出て関西へ入っていきます。その旅が終わる頃、判決は下されていますが、そのことを考えていると、ふと、ある人物が頭をよぎりました。
鎌倉時代中期、人々が正気を失い、絶望の淵に堕ちた「末法の世」。その最中、伊豫国に生まれた一遍上人という僧侶のことです。後に、民藝運動の提唱者・柳宗悦は「僧を棄て、寺を棄て、俗を棄て、衣を棄て、食を棄て、身を棄て、心を棄て、一切を独一なる名号(南無阿弥陀仏)に捧げ尽くした」のが、一遍の人生だったと述べました。
続けて柳は「どの時代にあろうが、まさにその時代が末法の世であり、極悪の世である」と語り、物事を分離して見るのではなく、一つの根源を言葉(南無阿弥陀仏)で表し、唱えることで、全てのものに繋がりを見出して不離に至り、それによって末法を生きる自らの中に、仏の救済を見出すことが必要だと説きました。
一遍は絶望の世において、踊りながら念仏を唱える「踊り念仏」を人々と行い、狂気と言えるほど徹底して自らの所有を捨てた人物です。そして明日、九月九日は一遍の命日。不穏な空気と人々を蝕む絶望は、果たしてその先に光を見るのでしょうか。それとも、「日本」と「日本人」が絶滅する未来の歴史的な一歩となるのでしょうか。
いよいよ、戦後が終わる二十年が姿を現し始めました。猛威は、これからです。

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■ 2. 国つ神計画研究所
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統一国家や単一民族と、場所に生きる多元的世界。
どちらが正しいかではなく、相反共存する世界に誰もが生きています。
日本民族のルーツ研究を通じて、開かれてくる本当の日本とは?
古代日本・考古・神話・民俗・遺伝子・霊性など分野を統合し、独自の視点で日本を読み解きます。
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日本を考える時、古代海人族を基層に据えることは、絶対だと考えてきました。彼らがどのようにして、日本列島を取り巻く潮流、海流、季節風と同化しながら、文化の礎を配備し、土地ごとに固有の国つ神や、線に生きるまつろわぬ神を静かに勃興させていったのか。
この謎を近代史上、最も鮮やかに描き出したのが、折口信夫の「まれびと」でした。海からの来訪神に始まった姿を考えるまでもなく、そもそも日本列島が海に囲まれている以上、海の流れを徹底的に熟知しないかぎり、文化も歴史も、結局は上っ面だけで何も見えてこない。これが現代日本の抱える一つの懸念として見えてきます。
一体、なぜ人々はこの理解を欠落させてしまっているのか。そこを今回は思考していきます。
海人族に関わる「アマ」という音は、古い大和言葉では「海」を指していました。ただし、この読み方が危険です。なぜなら、あくまでも漠然とした現在的な解釈であって、かつての多元的な古代日本を思えば、単純に海を指す一語ではなく、固有名詞ではなかったことが想定できるからです。
固有名詞ではない、ということは、そこに何かしら行為があり、実際の日常生活で活用されていたということです。それらを包摂して「アマ」と呼んでいた。問題は、かつての言葉が必ず行為を持っていたことを、今の人々が完全に見落としている点にあります。この現在日本人の思考における構造的なズレが、おそらく全てを歪めてしまっており、真の日本を自ら消し去ってしまった根本的な要因です。
考えなければならないことは、なぜ『古事記』編纂時代に、太安万侶をはじめとする編者たちは、音を文字にする過程であれほど頭を悩ませたのかです。理由は明白。既に八世紀代前半の時点で、古い言葉の本義や起源の類が、ほぼ絶えていたからです。ですが、ここには但し書きが必要です。「少なくとも、大和の官人たちの次元では」、理解されなくなっていたということです。各場所や村落では、その起源は継承されており、本義は生きていました。
ここに、日本の多元的な音の世界の揺れ動きが沈殿しています。たとえば、邪馬台国の比定地が、九州であったとか、畿内であったとか、別府であったとか、阿波であったとか、今日では無数に分かれた世界が主張されています。ですが、それらは全て例外なく「動き(行為)」を除去して、地上からその一点を分離させて見ているだけに過ぎない。つまり、動いていない。その意味では、どの比定説が抱える問題も同根です。それは邪馬台国ではない、ということです。
三世紀代の姿を、近代の視点で疑うことなく見ているから、こうした深刻な踏み外しが起きてしまうのです。本当の問題は、邪馬台国の所在ではなく、そこに人々が向けている思考の地盤が、近代によって覆い隠されていることです。
海の視点で見れば、分離などありません。そこでは全てが不離として、多元的に包み込まれているからです。これを「流動的視点」と呼ぶなら、その点は地上に打たれた杭のように止まるものではなく、常に線の上に在る今、ここの状態を点と呼ぶに過ぎないことが見えてきます。つまり、出発も到達もない。
ここに西田幾多郎の「場所の論理」を持ってくると、さらに明快になります。包み込まれるものが、包み込むものによって、包み込まれる姿。この様態こそが邪馬台国であり、大和であり、和であり、最終的に日本という国家を作り上げた幻想の裸体なのです。
これらを実装した時、鍵になってくるのが姫神です。これまで個人的に追いかけてきた中でも、例えば九州側で言えば、豊予海峡のハヤスイヒメ、青島のトヨタマヒメ、日南のアヒラツヒメ、大隅隼人が奉祀したクシラの女神など。これら全ての実地に立ってみると、黒潮に沿って海人族が動いていた事実は、かなり解像度が上がります。
そして、絶対に分離させてはなりません。不離の真相を伝えるように、今、古代海人族の黒潮航路の動きが、解明される大きな一歩を遂に踏み出しています。その最重要の存在が、徳島県(旧・阿波国)です。
昨年来訪した徳島県海部郡海陽町で発見された前方後円墳(多良古墳1号墳)は、道路開発計画で消滅する危機にありましたが、無事に昨年後半から調査が行われており、先月には阿南市の無人島・舞子島にある消滅寸前の古墳に、初めて本格的な調査が入りました。
これらを分離した点として読むと、何もわかりません。これらの成果と共に見なければならないのは、実は少し北上した徳島市側だからです。この徳島市の海域と接する山に祀られているのが、トヨタマヒメと、もう一柱の謎に包まれた姫神です。名を、ヤクラヒメと言います。
ヤクラヒメは、『古事記』にも『日本書紀』にも登場しない神で、完全に阿波固有の神です。ですが、ここで重要なことは、黒潮に沿って「神名が転移」していることです。
要は、別の神々が分離して存在していたのではない。確かに、部族が違ったというのはその通り。ですが、海人族は海を移動する性質のため、この部族の差異は極限まで同質に近付きます。有名な九州の宗像、阿曇、住吉などの海人族が、列島全域に渡る影響を残したことが真の姿です。
ゆえに、各地で海人族の神々は、かなりの程度で同質化(習合)しています。この感性が、かなり厄介な問題となります。個人的に、神仏習合以前に、そもそも原初的には神々の習合という歴史が非常に長期間続いたと見ています。今、私たちが神話で知っている神々は、あくまでもその数千年の歳月の果てに、習合された「大きな神」の姿でしかありません。
事実、この阿波の姫神たちの布置には、それらを包み込む(習合)かのように、山間部の神山町側で阿波国の祖神・オオゲツヒメが奉祀されており、河川を通じて沿岸部のトヨタマヒメ、ヤクラヒメと見事に接続しています。
これらを一つの流れとして辿り、同時に潮流、海流、季節風の巡りの中から読んだ時、場所が変わることで名前が変わっている。すなわち、音が転移している古代の姿が初めて見えてきます。最も重要なのは、この瞬間、行為がズレるということです。この行為のズレが、神々の多元的性格を生み出した真の母体です。なぜなら、場所(関係の生成)が異なるからです。
この布置をしっかりと領有し、物事を考えない限り、古代の姿はまったく見えてこず、古代日本はいつまで経っても空想でしかない。その状態から今の日本で何かを為そうとしても、それは日本を装った「日本ではないもの」ですから、結果的に日本文化は衰退し、日本人の能力も閉ざされていくのです。
今、見なければならないのは、間違いなく黒潮。これらは、単なる「歴史」の話ではないのです。

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■ 3. KINEMA 2400
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江戸時代、国学者は仏教や儒教などの中国的な影響に反発し、日本の固有性を万葉集や古事記に見出しました。
現在、私たちは欧米的な影響により、似たような状況に陥っています。
しかし、古典を読むことは、あまりにハードルが高い。
そこでこのコーナーでは、「日本の心」の観点から、往年の日本映画を読み解いていきます。
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今週は、一本の映画をセレクトします。
失われてしまった日本の心。国家と社会によってあらゆる帰属先が破綻し、人々が孤絶となった今、「新たな物語」を求めるのではなく、かつての心に目を向ける必要があると感じます。
ですが、心は規定できません。心はAIに聞いても教えてくれるものではなく、広大無辺でありながら、都度、様態を変えて顕現するものです。さらに心は、場所によって生成される関係によって変化していきます。それが後に、さまざまな思想の概念として育まれてきたに過ぎません。
こうした長い歳月にわたる集大成が、やがて「日本の心」として語られるようになったものの源流です。しかし、残念なことに、それはもう失われてしまったものであり、元に戻ってくるものではありません。現在はかつてに郷愁を抱く時間も、憂いを抱える時間も許されず、一瞬で国、町、民族も変わる不安定な時代。その渦中に生きる私たちが「未来」を語るなら、まず自分たちの立ち位置を掘り下げなければならないはずです。
では、今の私たちに、かつてを理解する術が残されているのでしょうか。残念ながら、この世界からは絶えてしまいましたが、絶えてからそれほど時間は経っていません。実際、わずか半世紀ほど前まで「かつての心」は残っていたからです。その決定的な姿が、フィルムに刻印されています。
それが、一九六八年に公開された『博奕打ち 総長賭博』です。この映画は文化、歴史、思想などに関わる全ての方々が見るべき最良の生きた教材です。正直、日本の心を論じた書物を何百冊読むよりも、はるかに、豊かに、そして深く、すべてがそこに描かれています。その描き方は、言葉を失うほど見事です。
己との向き合い、覚悟、男女の情愛、男と男の絆、女と女の思い遣り、命を預けた師弟関係、道に生きる中で対立せざるを得ない裂け目と情。この国の心をここまで顕現させ、一つの作品として描き切った例は、私が知る限りほかにありません。
かつて孟子は仁・義・礼・智を「四端の心」と説き、後に前漢の儒者・董仲舒が陰陽五行説と接続して、信を加えた「五常(仁義礼智信)」を確立。さらに儒学の根本経典の一つである『礼記』は「教えられずとも、人が生まれながらに持つ感情」として、喜・怒・哀・懼・愛・悪・欲の「七情」を記しています。
これらが日本人の精神構造に深い影響を与え、日本化された五常と七情は、豊かに列島で育まれていきました。それらが、すべてこの一本の映画に在るのです。これは信じ難いことであり、もはや映画として語る次元を超えています。
作品自体も、間違いなく任侠映画を得意とした東映の最高傑作の一つです。監督は山下耕作で、本作はここから爆発的に開花する「東映ヤクザ映画(任侠からヤクザへ)」の転換点となります。主演は中井・鶴田浩二、兄弟分の松田・若山富三郎、その弟分・音吉に三上信一郎、松田の妻・弘江は藤純子、中井の妻・つや子は桜町弘子、敵対しながらも敵ではない境地にある石戸・名和宏を筆頭に、「心」が交錯し、そこから本物の情感が生まれては消えていく様が、不離に包み込まれていきながら、本物の日本の心を映し出します。
この作品は、言葉で語ることができません。 ぜひ、今後のために同作品を鑑賞し、そこに刻印されている心を堪能してください。

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